JALはoneworld アライアンスとは別に、欧州線ではブリティッシュ・エアウェイズ、フィンエアー、
そしてイベリア航空と欧州線共同事業を進めている。もはや3社とは競合関係ではなく運命共同体であり、親密な関係構築の裏には10を超えるワーキンググループを形成する各担当者たちの、国を越えた連携がある。

1_最も深化した提携。

「インターライン提携」「コードシェア」「oneworld アライアンス」など、JALはこれまでさまざまな国際提携の形で、世界中に路線ネットワークを構築してきた。それは、各国の参入規制などにより、自社では運航できない国際路線を提携によって補完することで、お客さまの利便性を向上させるためである。同時に、その取り組みは収入の最大化を目指すという観点からも、極めて重要なものとなっている。しかし、どの提携も基本的に、提携先と競合関係であることに変わりはない。この点で、各社との協力にも限界があるのだが、唯一、その壁をも突破できる手段に「共同事業」がある。国際提携部において欧州線共同事業を担当する浅香大郎は、次のように解説する。
「共同事業とは、競合する2社が『独占禁止法適用除外(ATI=Anti-Trust Immunity)』の認可を取得することで、共同でのダイヤ・運賃策定を通じた『一体的な路線運営』を行う、最も深化した提携の形といえます。提携先とは、いわば運命共同体。ともに戦略を立て、戦術を練り、ネットワークの拡充、マーケットシェア拡大、そして収入の最大化を目指します」

国際提携部に所属し、欧州線共同事業の総合調整役を担う浅香大郞。新しい提携先を探索し、事前交渉を進め、ATI申請、共同事業・収入配分に関する契約書の作成と管理までを担当。共同事業の屋台骨を支えるプロデューサー的な立場だ。

2_与えられた時間は8カ月。

JALは2012年10月、ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)と2社で共同事業を開始することで、「戦略拠点」であるロンドンから先のネットワークを手に入れた。そして2014年4月には、フィンエアー(AY)を加えることにより、「日本から一番近いヨーロッパ拠点」であるヘルシンキから先のネットワークを確保した。こうして着々とヨーロッパでの路線網を拡充するなかで、2016年1月にイベリア航空(IB)が日本線就航を発表。これを知った浅香は、「日本から一番遠いヨーロッパ拠点」であるマドリードから先のネットワークを獲得するために、同社との共同事業を実現するべく動き出した。
「共同事業の相手は、どこでもいいというわけではないのです。企業として掲げる理念や文化、さらに社員の考え方や働き方に至るまで、互いに共感、理解し合える間柄でないと、深い関係は構築できないからです。この点でIBは、既に共同事業を共に進めてきたBAと親密な関係にあり、BA、AYとの共同事業にIBを加えること自体は、4社間ですぐに合意することができました。ただ、ここから更にクリアしなければならないステップがありました」
浅香がこう語るのも、2つのハードルをクリアしなければならなかったからだ。一つは、共同事業へのIB加入に関わる「当局からのATI認可の取得」、そしてもう一つが共同事業開始に向けた「4社間での調整」だ。通常1年程かかるミッションだが、IBの日本線就航は2016年10月。浅香に与えられた時間は8カ月だった。


3_会社の意思決定に関わる仕事。

ATIの認可が必要な理由は、「共同での供給調整(減便など)」や「話し合いによる運賃の策定」が談合と見なされ、独占禁止法違反となるからだ。ただし航空輸送事業の場合は、国土交通省や公正取引委員会などの審査により独禁法の適用除外と認められれば、それらが可能となる。
そこで浅香には、当局に対してIBとの共同事業が、「消費者利便の増進が見込まれる」「関連する航空市場における競争を維持・活性化させる」ものであることを証明することが求められた。そのために誰もが納得できるロジックを組み立て、需要シェアや供給シェアなどをもとに導き出した数値やデータで、それを裏付けていく必要があった。
「説得力のある内容でなければいけないので、提出するために用意した資料もそれ相応のボリュームとなりました。しかもATIの申請にはまず社内承認を得るため、最終的には取締役会に諮り、決裁を取得する必要があります。さらに、その資料をもとに当局が審査するだけに、会社の意思決定と、その後の国際路線事業を左右する重要な仕事でした」
浅香の奮闘によって2016年8月、無事にATIの認可が下りる。しかし、共同事業開始までは既に残り2カ月を切ろうとしていた。

4_10を超える分科会の奮闘。

ATIの認可が下りるまでには2〜3カ月かかると見込んでいた浅香は、ATI申請に向けた準備と並行する形で、独禁法に抵触しない範囲でできる限りの調整を行い、認可取得後、すぐに4社が共同事業開始に向けて協議できるように下準備を進めていた。というのも共同事業は一大事業であり、関連する部署も10を超え、認可取得後には各部署の担当者たちが、それぞれのカウンターパート(対応相手)とワーキンググループ(作業部会)を形成し、具体的な協議に入っていくからだ。なかでも共同事業を統括する浅香にとって、4社間の協議を進めるうえで重要なパートナーとなるのが、国際路線事業部と経理部だ。ATI認可後、収入配分協定の契約締結に向けた本気の交渉が控えていただけに、両部署の担当者との事前の意思確認が重要となっていた。

国際路線部の安藤大輔。パートナーと連携し、機材、ダイヤ、ネットワークの最適化を図ることで、4社の資産効率を高めていくことを使命とする。同時に、運賃戦略、販売戦略を練ることで、マーケットシェア拡大、収入最大化を目指す。

5_収入最大化を目指す。

現在、国際路線事業部でその任にあたる安藤大輔は、自分の立場では二つの役割が求められると話す。一つは、日欧間の総需要動向を見つつ、パートナーキャリアと連携し、どのように機材、ダイヤ、ネットワークを張れば、欧州線共同事業としてのマーケットシェア拡大を実現できるかを検討すること。もう一つは、パートナーキャリアと連携し、どのような運賃戦略、販売戦略を取れば、収入最大化を目指すことができるかを考えることだ。特に安藤は自社の収入を預かる立場にあることから、浅香と議論を重ねる際には自社の売り上げのみならず共同事業としてのあるべき姿という観点で、会社の対処方針を策定していくことになるという。
ちなみに、その時の考え方としては、長らくJALがスペイン線から撤退していた理由を検証すると分かりやすいと、安藤は解説する。
「スペインのマーケットは、観光需要のウェイトが非常に高いという特徴があります。ところが、JALの機材仕様はビジネスクラス以上の座席の需要が前提となっていることから、現状では当該マーケットに適合しないため、座席数を増やすことで成り立つマーケットには不向きでした。加えて、マドリードにしてもバルセロナにしても、ヨーロッパの奥深くまで飛んでいくことになるので、航空機が行って帰ってくるまでの所要時間がかかり、機材稼働率が上がらないのです」
しかし、エコノミークラス座席を多く抱えるIBの機材仕様であればスペインマーケットに合致するうえ、JALがコードシェアを実施することで送客の協力が出来れば共同事業として大きなメリットになるはず。
結局、各社ともに固有の事情を抱えているものの、共同事業として何が最適かをふまえて4社で協議することが重要になっていくのだと、安藤は話すのだ。


経理部を経て、現在は国際提携部で共同事業の経理を担う林智之。共同事業は絶えず進化しており、新しい取り組みが始まればその都度、成果配分方法を企画し、4社間の精算に関するデータ管理を行う。浅香と安藤を数字面で支える。

6_収入配分を決定する。

他方、経理部において、収入配分をどう計算するか、カウンターパートと辛抱強く交渉を重ねていったのが、林智之だ。
「共同事業における収入配分は、共同事業によって得られた成果を、合意されたロジックにもとづき分配するというのが大まかな仕組みとなっていますが、4社なので4等分、とならないところに難しさがあります。たとえばJALが運航していない路線に関しても、羽田や成田におけるハンドリングを私たちのスタッフが担当しているのであれば、共同事業のパートナーに対して貢献しているので、その路線から得られた収入を受け取ることを主張できます。この配分額を具体的に、どのように算出すればいいのか。ここが意見の分かれるところであり、協議するにしろ、交渉するにしろ、収入配分は常に頭を悩ませる部分となります」
特にIBに関しては約18年ぶりの日本再就航ということもあり、収入配分を決める際の基準をどのように設定すればいいかという議論があったという。共同事業に加わる前に日本線の至近の運航実績がある場合は、その実績を基準とすることで、共同事業の収支が比較検討できる。だが、IBの場合はそれがない。収入配分の基準となる重要なテーマでもあることから、この点については4社でさまざまなアイデアを出し合って議論したと、林は明かすのだ。


7_それは4社にとって有益か。

ぎりぎりまで続いた調整の結果、予定どおり2016年10月に4社共同事業は無事発足。路線の収入責任を担う国際路線事業部や、収入配分の緻密な計算を担う経理部と協力しながら、各社と交渉を重ね、最終的に契約書に合意できた時は、感無量だったと浅香は話す。そして実質2カ月という短期間で合意にこぎ着けられた理由について、次のように話す。
「共同事業とは、お互いにとってメリットのあるものでないと長続きしません。仮に交渉において一方が10対0で勝ったとしても、関係に禍根を残しては持続可能な提携は実現されず、大事なパートナーを失うことにもなりかねません。大切なことは『公平性』であり、これを4社間で共有できたことが早期合意の理由であり、同時に今後の事業に向けた結束力の強化にもつながります」
ところで、こうしたグローバルなビジネス、シビアな協議や交渉を進めていくには、どのような姿勢や能力が必要なのだろうか。浅香は、ディベートできるだけの語学力を前提として、「相互理解、相互尊重」だと指摘する。また、安藤も「寛容とリスペクト」と、浅香と近しいポイントを指摘する。そしてタフな交渉を続けてきた林は、次のように話すのだ。
「海外においては、日本的な『言わなくてもわかるだろう』というような『あうんの呼吸』は一切、通用しません。ロジカルに考え、シンプルに伝え、議論に煮詰まったら絶えず原点に立ち返り、主張すべきは何なのか、その本題、本質を見失わないことが肝要です」
ちなみに今回の事例でいえば、林が浅香が指摘したように「JALにとって有益かではなく、4社にとって有益か」という広い視野を持って取り組むことだといえば、安藤も「各社の利害を紐解きながら4社全体のベクトルをあわせ、共同事業としての最適解を目指していくところに、私たちの仕事の妙味、醍醐味がある」と言葉を添えるのである。

8_2社のアセットで実現する。

欧州線共同事業は、4社間で契約書を取り交わしたら、それで終わりというような単純なものではない。むしろそこから、ネットワーク拡充、マーケットシェア拡大、収入最大化を目指し、4社で各種取り組みをブラッシュアップしていく必要があると、浅香は説明する。そして安藤も、浅香たち4社主管部の担当者たちが組み上げ、契約書に落とし込んでいった骨子にもとづき、具体的な動きを加速させている。
「その一例として、2017年の冬ダイヤから、JALは羽田深夜発のロンドン便を飛ばしています。ヒースロー空港に朝着き、そこからBAの各便に接続できるようにダイヤを組みました。混雑空港であるヒースロー空港で増便が実現したのも、BAの協力を得られた事が大きかったです」
JALにとっては、ロンドンから先のアクセスをスムーズにしたことで、お客さまの利便性を高めることができた。BAにとっては、JAL便を利用してきたビジネスユースのお客さま、帰省するヨーロッパのお客さまを各便に取り込めるようになった。1社のアセットでは成し得ない成果を、2社のアセットで実現した、まさに共同事業の好例である。 また、欧州線共同事業の月次、年次の細かな数字を見ている林も、興味深い話を聞かせてくれた。

9_浮き彫りになったJALの強み。

「共同事業は、共同で得られた成果を配分していることが大きなポイントですが、4社の数字を比較検討することで、JALの強みが浮き彫りとなってきました。まず一つめは、他社と比べ季節変動が少なく、1年を通じて安定した収益を上げています。そして二つめは、自他ともに認めるサービス品質の高さがコストにも現れています。例えば機内食などにかけるコストも、他社の担当者が間違いではないかと指摘するくらいに高いことがわかりました。ではその分、収益が減っているかといえば、ビジネスクラス以上のお客さまのご利用が多いことが数字でも明らかで、サービスにかけるコストがきちんと吸収されているのがわかります」
また、定時性というサービスもJALの強みであり、IBも定時性に優れていることが数字でも明らかな点で、先のBAとの事例のような取り組みを、IBにおいてもさらに緻密なダイヤで追求できるはずと、安藤は期待を寄せるのである。

10_ プレゼンスをグローバルに。

欧州線共同事業の舵取り役を担う浅香は、いろいろな提携の形があるなかで、「共同事業には夢がある」と語る。これという明確な答えがないなかで、4社で議論を重ねながら、それぞれの強みを生かしてグローバルにどんなことができるのか、その可能性を追求できるからだ。もちろん、時には利害がぶつかり合い、議論がヒートアップすることもあるが、根底の部分で強固な絆が結ばれているので、時間をかけながら少しずつ歩み寄っていける。そして互いに信頼し、本音でぶつかり合っていると、ある考えに達するのだと浅香は話す。
「どんな大きな取り組みであろうが、会社を代表しての交渉であろうが、ビジネスは最後は人対人です。この点、それぞれの会社には実に魅力的な人が多いことに気づかされます。」
浅香、安藤、そして林が、それぞれの持ち場で発揮してきたパフォーマンスは、2020年の東京オリンピックパラリンピックを契機に大きな実を結び始めるはずだ。これまでJALを利用する機会のなかったヨーロッパ各地のお客さまを、BA、AY、IBが一致団結してJALに送り届けてくれる。そしてJALが、実力をいかんなく発揮することで、海外からのお客さまたちを魅了することができれば、BA、AY、IBの利益として還元されていく。そして重要なことは、アジアにおいてJALのプレゼンスをグローバルに高めていければ、それは4社による欧州線共同事業にとって最大の追い風になるということである。

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