
INTERVIEW
仕事と育児を両立し、
女性機長として
今日も世界をつなぐ。
1998年入社
外国語学部 英語学科卒
仕事と育児を両立し、
女性機長として
今日も世界をつなぐ。
幼い頃から飛行機に乗ることが好きで航空業界を志望していたが、大学の就職活動時がバブル崩壊後の経済環境悪化と重なり、国内航空各社の客室乗務員募集がストップ。そこでパイロットの道を模索する中で航空大学校の存在を知り、入学を志願する。入学者100名のうち、女性合格者2名という難関を突破して合格。2年半の訓練を経て、運航乗務員訓練生としてJALへの就職を決める。
「真の勇気を持つ」
航空大学校で訓練生だった頃、教官に言われた「聞くは一瞬の恥。聞かぬは一生の恥」。当時は気恥ずかしさからその通り行動することに戸惑ったが、振り返ればJALに入社後、失敗を恐れず積極的に数々の訓練に挑んできた。“勇気”を持って行動に移し、失敗から多くを学んできたことが、機長としての礎を築いたと感じている。
現在、女性パイロットは50名を超え、毎年多くの訓練生が入社していますが、私が入社した年の女性訓練生は私一人。その数年前にJAL初の女性パイロットが誕生したばかりでした。入社後2年の訓練を経てボーイング747-400型機の副操縦士としてキャリアをスタート。経験を積みながらフライトに必要なスキルを磨いていきました。以来、約7年間の産休育休を挟みつつ、2021年、入社時からの念願が叶い機長に昇格を果たしました。
社内における女性初の大型機機長としてエアバスA350型機に乗務し、国際線・国内線のフライトに従事しています。安全を前提とした、定時性、快適性そして環境負荷など多岐にわたる運航方針に則って大勢のお客さまをお運びするために、日々最大限の準備をしてフライトに臨みます。その際に心がけているのは、機長1人でフライトは成し遂げられないということ。副操縦士をはじめ、客室乗務員や地上スタッフと緊密に連携し、お互いに支え合い、安心・安全なフライトの実現に努めています。
私は女性が結婚後も仕事を続けるには“手に職をつける”こと、つまり資格が必要だと考えてきました。そういう意味でパイロットは専門職で資格が必須。資格を持つことで経済的にも自立でき、長く働き続けられると考えたのです。例えば他業種では産休を取ると一緒に働く仲間へ気を遣ったり、育休後に同じ職務に復職できるのか不安になったりすることがあると聞きます。しかしパイロットには普段から男女問わず、欠勤や遅延・欠航への対応として勤務を臨機応変に組み替える体制があり、育休取得時でも同様の対応が可能です。事実、私自身も育休中にさらに双子を授かり、結果的に6年間休職した後に乗務に復帰しています。そうした経験からも、パイロットは出産や復職に対する障壁が低く、女性に適した職業だと実感しています。
常に努めているのは資格を保持すること。パイロットの資格は一度取れば終わりではなく、毎年ある定期試験に合格し続けなければ資格を継続できません。さらに乗務する機種が変わる際は機種ごとに資格を取得する必要もあり、そのための機種移行訓練など、さまざまな訓練が待っています。その全てのステップをクリアする必要があり、辛いと感じる瞬間も正直あります。ですがその反面、クリアすることで技術・技能向上の手応えを感じ、かつフライトを続けることができるやりがいがあります。資格を保持することは、私にとって大いなる喜びなのです。
機長昇格訓練はどの訓練よりも厳しく長く、その後の社内審査にも合格しなければなりませんでした。しかし、機長に経験不足や失敗は許されないのですから厳しいのは当然です。そのため訓練中の失敗や判断ミスには、厳しい指摘やアドバイスが指導教官から飛んできます。その度に自分の技術をレベルアップして、機長に必要な資質を磨いていくのです。
厳しい訓練の日々でしたが、実は私自身、ワクワクしながら訓練に参加していました。なぜならこの訓練が、今の自分に足りないものは何か、深く見つめ直す貴重な機会だと実感したからです。この場なら勇気を持ってなんでも聞いて吸収することができる。大きく成長できるチャンスの場なのだと、前向きに受け止められました。
必死に機長昇格訓練に取り組んでいた時、ある機長から「何でも1人で背負い込むな。周りに迷惑がかかるよ」と言われたことです。心のどこかに「やっぱり女性は…」と思われたくない気持ちがあり、無理をしてでも頑張ろうとしていたのです。その一言を聞いた瞬間、肩の力がスッと抜けました。万が一、機長がパンクしてしまうとフライトに重大な影響をもたらします。困った時は声に出してフォローを求め、副操縦士や客室乗務員など仲間の力を最大限に引き出してフライトを成し遂げる。それが機長の役割だと学んだことが最も印象に残っています。
2年以上に渡る昇格訓練は多くの収穫をもたらしてくれました。それは機長という重責に向き合う今の私の大きな糧となり、日々のフライトを支えてくれています。
機長という目標に向かって夢中で歩んできた結果、社内外に向けて自分の経験や知見を発信する機会が増えるようになりました。例えば小・中学生を対象に学校を訪問し、飛行機のフライトの仕組みや安全に不可欠な整備の仕事を伝える「航空教室」。あるいは、さまざまな女性乗務員の仕事・ライフデザインについて、会社の垣根を越えてディスカッションする「女性運航乗務員の意見交換会」への参加など。私の歩みが少しでも多くの方々に役立つのであれば、今後もあらゆる機会を使って経験の全てを発信し続けていきたいですね。