INTERVIEW
機長と採用担当。
その両翼を羽ばたかせ、
JALのこれからを担う
人財を見出していく。
調査役機長
1988年入社
理工学部 数理科学科卒
機長と採用担当。
その両翼を羽ばたかせ、
JALのこれからを担う
人財を見出していく。
大学の先輩が合格したことで興味を持ち、自社養成パイロットを受験。飛行適性試験で初めてセスナに乗り、「地上で描いたイメージを機上で実行する」ことの面白さを実感。この時、「必ずパイロットになる」と決意。出会った先輩社員たちの温かさも、その決意を後押しした。
「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」
2010年の経営破たん。社内のパイロット訓練が全てストップし、採用に携わった200名以上のパイロット訓練生が訓練中断や中止を言い渡され、業務企画職への職変を余儀なくされた。彼らのサポートに取り組みながら、会社の再生のために目の前のことにポジティブに取り組む訓練生たちの姿に感銘を受け、このJALフィロソフィを重ねた。
大きく分けて2つの職務を担当しています。まず1つは、ボーイング737-800型機機長。副操縦士をはじめとするメンバーと緊密に連携しながら、「運航の方針(安全性・定時性・快適性・環境・運航効率)」に則ったフライトを実現しています。乗務の多くは1泊2日、または2泊3日の国内線。1日あたり3回のフライトが基本です。これが私の本業といえますが、同じくらいの時間を充てて取り組んでいるもう1つの職務が、JALパイロット候補生の採用担当です。
自社養成パイロットや航空大学校、私立大学の操縦科などを対象とした採用面接や飛行適性試験を主に行っています。その他にも、工学院大学の特任教授としてパイロット人財を発掘したり、授業や講話を通じてパイロットという職業の魅力を伝えたりと、さまざまな取り組みに携わっています。適正な人財確保は将来のJALの要です。その採用業務に自身の乗務経験を活かせることを嬉しく思いますし、パイロットという仕事を客観視する絶好の機会。そこで得た気づきを本業の乗務に活かしていくこともできます。2つの職務はそんないい影響を与え合っていると思います。
機長昇格訓練中にある教官からこう言われたことがあります。「フライトは家族旅行と一緒だよ」——目的地までのルート、どこで食事をとるか、イベント内容の計画はフライトの計画と同じです。実際には、予想外の道路の渋滞やレストランが満席、家族の体調不良など、必ず想定外のことが起こります。自分の計画を遂行する事が最良と考えがちですが、その場の状況判断と家族とのコミュニケーションにより、他の選択肢を含め適切に対応することが必要です。自己満足の旅行ではなく、旅行の最後に「いろいろあったけど楽しい旅行だったね」と家族に言ってもらえたらその旅行は合格点。フライトにおいても、同乗した乗務員のメンバーたちそれぞれが、「納得いく仕事ができた」と思えるように計らうことが機長の大きな役目であり、そんなフライトはお客さまにも満足いただけると思います。
例えば、副操縦士との関係づくり。私は採用担当として、またアリゾナ州フェニックスで行われる訓練の教官として、多くのパイロットの採用や育成に関わってきました。そのパイロットたちと、機長と副操縦士という立場で再会することがあります。私自身はそれがとても楽しみなのですが、きっと彼らは緊張しているはず。その緊張を一刻も早く解き、「教官と教え子」ではなく「機長と副操縦士」として向き合えるよう、コミュニケーションには気を配っています。意見を対等に述べ合うことができる信頼関係は、安全なフライトのためにも、「納得のいく仕事ができた」という達成感のためにも、欠かせないものですから。
何枚もの木の板を束ねて作った、昔ながらの風呂桶を想像してみてください。それぞれの木の板の背が高いほどたくさんの水が入ります。しかし、低い板がたった一枚でもあると、水はそこまでしか入りません。同じことがパイロットにも言えます。他がどれほど優れていても、不十分なスキルが一つでもあるとお客さまの命を預かることはできません。全体のレベルを常に一定水準以上に揃えることが重要なのです。そのために必要なのは、自分の弱点を客観的に把握し素直に認めること。私自身、訓練時代に知識面の弱さを自覚し、克服のために工夫を重ねてきました。
離陸前から着陸までのあらゆるフェーズについて、「起きるかもしれないこと」「それが起きた時にすべきこと」を規定類とともにフローに書き出し、ノートにまとめました。いざという時に切れる知識の手札を一枚ずつ増やしていくような感覚です。実際のフライトで何かが起きれば、その中からふさわしい手札を出す。すると、副操縦士からも別の手札が出る。それらを突き合わせた上で、最善の手札を選ぶ。フライト後に作成した新たな手札を自分のものにする。この繰り返しは今でも行なっています。
パイロットの魅力を伝える中で、特に小学校での講演で感じることですが、私が制服姿で登壇する時には緊張気味だった子供達が、パイロットの魅力を肌で感じてくると、表情が緩み目が輝き始めるんです。帰りに校門から車で帰る際にバックミラーを見ると、講演に参加した多くの小学生たちが「僕たち、私たち、将来パイロットになります!」と叫びながら追いかけてきます。パイロットは彼らをそんな気持ちにさせる仕事なんだと実感し、本当に嬉しく感じます。
コロナ禍もそうですが、航空はイベントリスクの大きな業界です。だからこそ、時代の流れに応じた柔軟な対応が必要です。JALがこれからも成長を続けるには、「JALがすべきこと」「JALにしかできないこと」「JALだからできること」をさらに明確にしていくべきだと考えます。その第一歩として、将来のJALを担う人財の素養を明らかにし、その発掘・採用・教育の各フェーズの充実に少しでも力になれたらと思います。